2017年12月15日金曜日

世界一の広告会社がこんなことやるか アサツーディ・ケイTOBの裏側で

 2017年の秋、東証一部上場企業の経営陣が25%近くの株を持つ筆頭株主との業務提携を解消、自分の会社をほかの会社にTOBしてもらうという珍しい出来事があった。身売りしたのは国内広告会社第3位のアサツーディケイ。大株主は世界最大の広告会社の英国のWPP。ほかの会社とは米投資会社ベインキャピタル。経営規模からすれば、実態はどうあれ、子会社が親会社を裏切って勝手に身売りしたようなお話なのだ。
 さすがにWPPは納得せず、株のTOB価格が安すぎるとし、アサツーの一部の行為に対する禁止の仮処分を東京地裁に申請するなど、一時はTOBは成立しないとの見方が広がった。成立のためにTOB株価3660円の引き上げが必須と判断した投資家らは買いに走り、株価は一時4000円近くまで跳ね上がった。 
 しかし11月21日、アサツーとベイン側とWPPとの間で合意、一転、TOB成立の見込みになった。そこにどんな駆け引きがあったか知らない。ただ、アサツーとWPPの間に現代の企業社会においてあり得ないような、いびつな関係があり、そのことがアサツーのWPPとの関係離脱を招き、またWPPも認めざるを得なくなったようだ。


筆頭株主が経営資源収奪


 ビジネスジャーナルの編集部がまとめた記事によると、真相は以下のようなことらしい。
http://biz-journal.jp/2017/11/post_21513.html

 筆頭株主という立場を利用した経営資源収奪の構造だった。

 アサツーという会社は投資家の世界では、高配当会社として有名だった。
2011年12月期は特別配当89円を含め1株109円。当時、株価は2500円ぐらいなので単位株(100株=25万円)を持っていたら、4%にあたる1万ほどの配当がある。各社ともここ1、2年配当がかなり上がっているが、当時、そんな高配当会社を見つけるのは難しかった。2014年に至ってはさらに跳ね上がり、1株571円。株価はそれほど変わっていなかったので、単位株で5万7100円。配当は20%ぐらいになった。
 それだけの配当は、多くの投資家を驚かせ、ネット株関連の掲示板では正式発表にもかかわらず「そんなことはあり得ない」「ウソつくな」というやり取りが乱れ飛んだ。

配当のために会社資産切り売り


 だが、ビジネスジャーナルはその実態を暴露している。配当性向(純利益から配当に回す割合)は3割程度が普通だが、14年の配当性向は646・5%。稼いだ純利益の6・5倍の配当を支払ったことになる。WPPはアサツーの1033万株を保有。11年から16年まで実に132億円の配当を手にし、アサツーは最終利益以上の金額を配当に回さざるを得なくなり、会社資産の切り売りに追い込まれたというのだ。

 どこの世界に経営資源まで配当として奪い去っていく株主がいるだろうか。それでは企業はいずれじり貧となってしまう。儲かった分の一部を株主に還元するのは当然だが、残りは発展のための資金として使い、企業価値を高め株価を上げ、配当も増やすというのが本来のあり方だ。企業の儲けを食い物にするというのはあり得ないし、ましてやWPPは同業であり、ともに発展していく仲間ではないか。


ホワイトナイト招き、筆頭株主排除


 2013年、社長に就任した植野氏は14年からWPPとの資本業務提携解消に向けて協議を進めた。WPPは“植野切り”に動き、株主総会で植野氏の再任に反対票を投じ、再任賛成率は59.49%とかろうじての承認となった。そして、ベインをホワイトナイト(白馬の騎士)として招き、WPPの排除に踏み切った。
 植野氏は米通信社ブルームバーグのインタビューで、「我々はWWPの子会社ではない。彼らが自らの利益を優先してくるところが大きかった」と、提携解消を決断した理由を明らかにしている。

高額配当の裏で奴隷みたいな関係が


 アサツーの株主として、高額配当をもらい、株主総会にも出たことがあるが、そんなばかげたことになっているとは知らなかった。世界1とはいえ、たかが英国の広告会社に日本の広告会社が奴隷のようなまねをされている。それに、世界1の広告会社がこんな振る舞いをして、それこそ、自分の株主から非難されなかったのか。こうした事態を白日にさらすことができなかったジャーナリズムも情けないというほかない。
 40年近く前、数十社の会社訪問で初めての内定をもらった会社(就職は別の会社)がこんな状態に陥っていたとは。

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