2018年1月11日木曜日

映画「ムーンライト」の世界、やっぱり分からない

 この映画を見た日本人の大半が、首をかしげうなってしまったでしょう。「どう評価していいか分からない」。「アカデミー、どうして?」。2017年アカデミー作品賞の「ムーンライト」を初めて見ました。蔦屋で借りてきたDVDで。比較的、じっくり見ましたが、「やっぱり分からない」というのが正直なところです。


ゲイの映画なのかな?


 いつものようにネタバレ感想です。
 主人公は黒人の少年シャロン。第1部「リトル」では、黒人の同級生にいじめられ、母親からも虐待されるリトルことシャロンの姿が描かれます。彼を助けるのがファンというキューバ出身の黒人の麻薬売人。その彼女でやたらおっぱいの大きいテレサ(ジャネール・モネイ)に心を開いていきます。といって気弱な彼の性格が大きく変わるわけではありません。
 第2部「シャロン」。思春期に成長したシャロンは高校で相変わらずのいじめられっ子。子どものころからの友人ケヴィンには特別な感情を抱いているようで、夜の砂浜で肩を抱かれてキスをされ、股間を触られるシーンが出てくる。射精を思わせるシーンもあり、あらこれって「ゲイの映画なの?」と思ってしまいます。そして、いじめ側にけしかけられ、ケヴィンに殴られるシャロン。誰がやったかに口を割らず、いじめ側の首謀者を後ろからいきなり椅子でなぐり、少年院に送られます。
 第3部「ブラック」では、成長して麻薬売人になったシャロンの姿が描かれます。結局、ファンと同じ道をたどっている。ある日、レストランのシェフとなったケヴィンから電話があり、シャロンが自ら会いに行きます。「お前以外と親しくなったことはない」と気持ちを打ち明けるシャロン。すでに妻と子どもがいるケヴィンと肩を組むところでストーリーは終わります。


変わらなさがテーマ?


 ゲイのいわゆる恋の物語かとも思いました。だとすれば、アカデミー賞にはちょっと辛い。何かを訴える「何か」が絶対あるはずだと思ってネットの評価を見てみました。その中でしっくりした解釈が「主人公」の「変わらなさ」こそがテーマではないのかという見方でした。つまりシャロンとファンとの間には、恐ろしいほど違いがない。貧しい家庭、結局、麻薬の売人になるしかない人生。日本人には想像がつかないかもしれないが、黒人の多くはこうした人生を送っている。大リーガー、プロバスケットなど這い上がれるのはホントひと握り、多くはシャロンのような人生を送るしかない現実があるのだということでした。


オバマも、メジャーリーガーもいるけれど


 だから、ラストでシャロンとケヴィンに心が通じ合ったこと、それだけでも一歩踏み出せた、つまりはそこにアカデミー賞の選考委員達は心打たれたということなのです。
 この解釈が正しいとすれば、日本人に理解することは難しい。水泳とフィギュアスケートを除くあらゆるアメリカのスポーツのスターは黒人だし、ポピュラー、ジャズを聴く限りミュージシャンの主役も黒人。前の大統領はオバマだし、ライスという黒人の頭の良さそうな国務長官もいた。黒人だって優秀な人はどんどん這い上がっている、それが日本人のイメージでしょう。なのに、こういう這い上がれない人たちに黒人を代表させられてもと言われても、でもそれが紛れもない大半の黒人が置かれた立場だとしたら・・・

どこに心打たれのか


 少なくとも日本にはそんな現実はないでしょう。麻薬の売人の息子が売人になるケースなんてあまりにも例外的。やくざの息子がやくざになることはあるだろうけど、それも日本人一般とかけ離れていて、「そんなこともあるさ」で片付けられしまうでしょう。

 ところで、この映画のアカデミー賞受賞に際して、マスコミ各社の評を読んでみると、「美しい映像と音楽、説明を排した詩的な構成で、人種や性別を超えて観客を主人公の内面へ引き込み、いつかの自分を見るような切ない感覚をもたらす」「自分と違う人々を見て、理解し、共感し、つながる映画だ」などの、誠にとってつけたような評価を見ました。そうなのかもしれません。でも私の感受性でそこまで言うのは絶対無理。というか、1時間50分ほど見ていて、共感したりつながったりできるってよほどの作品だと思うけど、そこまではという感じがします。

 さて2017年のアカデミー賞を争ったのは、ミュージカル「ラ・ラ・ランド」でした。プリウスに乗って颯爽と走る女の子と成功するジャズピアニストの恋物語。白人中心で黒人ばかりのムーンライトとはあまりにも違った世界でした。ラ・ラ・ランドはラストについていろいろ解釈はあるでしょうが、基本お気楽な映画です。だからといって、どちらを選ぶかと聞かれたとき「ムーンライト」と答えるのはかなり難しいと思っています。ムーンライトに心打たれた人たちの心象とは何なのか、やっぱり今のところ謎でしかありません。

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